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屋敷物語 第四十話 預言

(……バルフォアさん、か。会えるものなら会ってみたい。
でも、俺一人じゃどこにも出歩けないし、誰とも話が出来ないし。
結局、ガルディオスさんに頼るしか、ないんだよな……)
ルークは、ガルディオスにあてがわれた部屋の寝室で悶々としていた。
(そもそも、ユリアさんは話もする事が出来なかったのに、
どうして預言を読むことができたんだ? わかんねー……)
口を動かしてみるが、やはり声が出なかった。
(ガルディオスさんが、俺とのやりとりの方法を見つけてくれたから
いいものの、他の人とはどうしたらいいか分かんないし……)
ある意味、何も見る事が出来ないのでこの世界になじめたのかも
しれない。きっと、いつもの自分のままだったら、パニックに陥って
いただろう。
(みんなも心配してるだろうな……。それに、アッシュも……。
そういえば、宝珠の中に飲み込まれてこうなったんだったっけ……。
だとしたら、逆に出られる方法もあるはずなんだけど)
「!?」
急に何かに口を押さえられた。
「!?!?!?!?」
ルークはジタバタと暴れる。今の体は女性であるだけに、抵抗することが
できない。叫んで助けを呼ぶ事もできない。
「しっ、静かに。私ですよ」
「……?!」
まさか、こんなところで聞き覚えのある声を聞くとは思わなかった。
(ジェイド……!? なんで……?!?!)
「こんな夜更けに女性の部屋へ忍びこむなど、普段の私ならしない事
なのですが、どうしてもあなたの事を知りたかった」
……ジェイドじゃない? だとすると。
「私は、バルフォア。失礼、電気を点けさせて頂きます。
ガルディオスは生真面目な事があって、好いた者には手を触れさせない
処がありましてね。どうせ、私と会うななどと釘をさされた事でしょう」
(似ているな、ジェイドに)
きっと、見えていたのなら、彼がルークの知っているジェイドと
レプリカ以上に似ていると思っただろう。
「いや、あなたが叫び声をあげなくて、本当に助かりました。
ただでさえ、警備が固いのでね。ま、抵抗するのであれば容赦なく
反撃するまでですが」
(……)
「私は治癒の力も持っています。まぁ、マナや音素に頼らない方法で、
ですが」
「!」
ルークは嬉しさのあまり抱きついてしまった。話ができないのなら、
態度で表わすしかない。
「そんなに感激されるとは……。その代わりと言ってはなんですが、
あなたの、その、第七音素の力をお借りしたい」
(ただで済ませない処もそっくりだぜ……)
ルークは冷や汗をかいた。
「私の仮説が正しければ、あなたのその第七音素で世界を救えます。
今この世界は、マナが枯渇しようとしている。いわば、もうすぐ
滅びる世界。私は、第七音素の、可能性を信じたい。第七音素は、
破壊と再生の力を持つ、心の意思のようなもの。再生の力があれば、
この世界は救われる」
(そうか。この世界は、これから障気に飲み込まれてしまうんだ……)
アクゼリュスのような事が、星全体に起きようとしているのか。
「”救われる未来”を我々の手で創りだすのですよ」
(……?!)
一瞬、預言の事か、と思う。
「石に、”正しき道”を文字として刻みこむ。人々はそれに従う。
そうすれば、世界は滅びる事はない」
(そういえば、なんで預言が石で読めたんだろうって思っていたけど)
「その文字を、あなたが預言として詠んだ事とする。話が出来るように
なった事と引き換えに」
(……なんか、ユリアの気持ちが分かったような気がするな……)
きっと、ユリアという存在は、世界が作り出したんだ。当時の人々の
手によって。
「そこまでだ、バルフォア! ユリアを離せ……!!」
部屋の扉が大きな音を立てて開き、ガルディオスが駆け寄って来た。
剣が鞘から取り出された音がする。
「邪魔が入りましたか。しかし、たとえ友人だとしても、今回ばかりは
譲れません。ガルディオス、あなたは世界を滅ぼしたいのですか。
この者の力がなければ、世界は滅ぶのですよ!?」
「どうせ、お前の事だ。ユリアの命を引き換えにするつもりだろう!?」
「ユリアと世界と、どちらが大切なんですか。ユリアが世界を救わなければ
ユリアが生きる世界もなくなるのです」
「うるさい……!」
「聞きわけの悪い子です。……タービュランス…………!」
ルークは呪文と共に、抱きかかえられた。
「くそっ」
ガルディオスはその場に動きを封じられたのだろう。
「ユリア、お前を必ず助けに行く! この誓いにかけて……!」

「ガルディオスも、悪い男ではないのですが、眼の前のもの以外
見えなくなる事がある。困ったものです。それにしても、会話が
出来ないのはやはり不便なものですね。あなたがこちらに来て
くれたお礼です。簡易的でありますが、目と言葉を治してさしあげ
ましょう。数日、かかるとは思いますが。何、新しい目とのどを
入れ替えるのですよ。譜石でね」
(……)
どうやるのかまでは怖くて聞けなかった。深い事情は知らない方が
いい。きっと、音機関のようなものなんだろう。
「痛くはありません。ま、少し辛い事があるかもしれませんが、
そのうち平気になりますよ」
(騙されちゃいけない。こういう時は、絶対に痛くて辛いに
決まっている)
「不思議なものです。たいがい、私と初対面でやりとりをする者は
怖がるものですが、あなたは肝が据わっている。むしろ、私を
知っているかのように。ま、理由は後で詳しく話して戴きましょう」

数日後、ガルディオスが救出して来る事もなく、バルフォアによって
”治療”が行われた。ルークは改めて、自分自身の姿を鏡で見る。
(ティアに全然似てない。むしろ、俺がそのまま女性になったみたい
じゃないか……?)
新しい目も、のども、譜石によって作られたものらしい。全然違和感は
なかった。痛みを感じる事もなかった。ただ、時折、心の中が何も
感じなくなる事があったが。
「あ……あ~~~~~」
声には違和感があった。ティアよりもアニスよりも声のトーンが高い。
一番近いと思ったのは、屋敷にいるメイド達じゃないか?
「どうです? 不自由のない生活は」
「あ…りが……とう……」
なるべく、女性のような話し方をしないと、疑われるかもしれない。
「さて。あなたの事をいろいろと知りたい。まず、あなたは
何者で、なぜ第七音素を持っているのか。まぁ、未知なる音素を
あえて第七音素、と言っているわけですが」
「み・・・らいから・・・・・・来たの」
どこまで話していいのか分からない。でも、この人物には全てを
話しておかなくてはならない、とルークは思った。
「世界・・・が救われた・・・・・・あとの世界から」
現状、ルークのいる世界は救われたと言えないが、彼らから見れば
救われているだろう。
「……!」
バルフォアは目を見開いた。ルークは、彼が眼鏡を外した大佐にしか
見えなかった。
「あなたに、そっくりな、人を知ってる」
「……」
「あなたが言った、預言の事も知ってる」
「そう、だったんですか……。これは、運命と思うしか……。
我々は、どうやって世界を救ったんですか」
「外郭大地」
「……なるほど、その手が…………!」
バルフォアは、感激のあまり、片手で口を押さえて肩を震わせていた。
「でも、どうやってできたのか分からない……」
「あなた方でも、すべてを知っているわけではないのですね」
「ごめん……なさい」
「ユリア、あなたが知っている預言を、ぜひあなたの手で譜石に
刻んでください。……その、超振動の力で」
(……!)
ルークは驚いた。そうか、超振動によって預言は刻まれたのか。
人々はきっと、その行為を、「文字が現れた」と思ったのに違いない。

そして、その夜、彼はやって来た。二階の窓だというのに、剣を
使って登って来たらしい。
「ガイ……!? 違った……ガルディオスさん……!」
ルークは走り寄った。案の定、ガルディオスは、ガイとそっくりだった
のだ。ただ、ルークの知っているガイとは違い、頑丈な鎧を着ていたが。
「また、この剣に教えられたよ……。お前が、ここにいるって」
「私……、声も目も治ったの……!」
「そうか、良かった! でも、お前があいつに利用されるのは
がまんならない。今すぐここから出よう……!」

(ガイ……? ガイ、って言わなかったか? 彼女は)
ガルディオスの手の中で、ガイは目の前のユリアを見つめた。
(まぁ、彼女は預言者なんだろうから、知っていてあたりまえだろう
けど、でも、ガルディオスを見て、ガイって言わなかったか……?)
彼はガイにそっくりだ。自分でも驚くほど。そんな彼を見て言ったのだ。
ガイ、と。
(人間じゃないってのは、不便なもんなんだな……)
ガイはじれったくて仕方ない。もしかして、彼女の中にルークが。
(もう少し、様子を見よう。もしルークだとしたら、何がなんでも
守らなきゃな。こいつにも、強くなってもらわなくちゃ)

「…………う、わ!」
「どうした、ユリア……!」
ルークは、ローレライからの通信の時に起きる頭痛に似た痛みが
突然走り、蹲った。
「いけませんねえ、彼女をここから離すのは」
「いったいユリアに何をした……! 眼とのどを治すだけじゃなかった
のか……!?」
「私から離れたり、第七音素同士のやり取りが見られる時に
頭痛が起きるようにさせました。共鳴を利用して、ね」
「なんだって……!? ユリアがかわいそうじゃないか……!?」
(ルークが、ローレライとの通信の時に頭痛をおこすのと似てないか
……?)
ガイは蹲ったまま動けない彼女を心配する。
「私からすれば、かわいそうなのはあなたの方です。あなたは
世界を敵に回す気ですか?」
「彼女を救えない世界が、すばらしいなんて思えない!」
「すでに、帝国は、彼女を預言者として迎え入れる用意ができています。
あなたは我々に従うしかない。そうでなければ、近衛隊長の地位を
剥奪します。その剣とともに」
「…………卑怯な…………!」
「卑怯? あなたの個人的な感情だけで、世界を滅ぼすのと、どちらが
正しいというのです……?」
「…………」
「痛い……っ ああーーーーっ!」
ルークは叫び声をあげた。このまま痛みが続けば、気を失いそうだ。
ローレライからの通信の時のレベルではない。
「……分かった」
ガルディオスは項垂れた。
「俺は、この剣と近衛隊長の地位を捨てる。その代り、彼女を助ける」
「馬鹿な男ですね。私から離れれば彼女は苦しみ続けるだけですよ?」
「そうか。ならば、お前は、彼女が苦しみ続けているのを平気で見て
いられるのか……?」
「……っ」
今度はバルフォアが躊躇する番だった。
「ふっ。やっぱりな。俺とお前は、ライバル、っていうわけだ。
バルフォア、提案がある。お前は俺の事を毛嫌いしているようだが、
俺を、近衛隊長ではなく、傭兵として雇用してほしい。俺だって世界を
滅ぼしたくない。だから、彼女を苦しませなくてもいいような世界を
創る事もできるはずだ。お前が彼女から離れないのなら、俺も彼女から
離れない」
「考えましたね。確かに、私は傭兵も欲しい。だが、ガルディオス、
これはイバラの道ですよ。ダアトを敵に回すことになります。
分かってますか?」
「分かっているさ。あいつらがユリアを浚おうとした時から、あいつは
俺の敵だ! いや、俺達、かな」
「やれやれ……。彼女よりも陛下の近衛隊長として腕を奮ってくれたら
良いものを」
「陛下は、近衛などいなくとも、百の兵に匹敵する実力をお持ちですよ。
何しろ、あなたともあろう者が頭があがらないんですから。それに……」
ガルディオスは、ガイとうりふたつのほほえみで、にっこりと笑った。
「ユリアを治してくれて、ありがとう」
「……言われるまでもありませんから」
気を失った彼女を、ガルディオスは抱き上げてベッドへと連れて行った。
「ガルディオス、さん、ありがとう」
やっと楽になったルークはじっと彼を見つめる。
「今更、さんづけはよしてくれ。それに……」

「俺の名前は、シグムント、だ」
(まさか、シグムントに会えるとはな……それに……)
ガイは考える。
(シグムントに剣を教えたのって、俺になるって事じゃ……?)
今のところ、アルバートの姿は見えない。いずれ姿を現すだろう。
もしかすると、ダアト側にいるのかもしれない。なんとなく、どんな
姿をしているのか、想像できた。
(でも、この世界の人達は、この世界の人達なりに、理想郷を
創りたかったんだな……)
ガイは、ユリアを眺めながら思う。
(ルーク、もし、お前がユリアの中にいるのなら、俺に気がついて
ほしい。せめてそれだけでも)
「その宝剣を今日貸してほしいの」
「どうしたんだ? 急に。まぁ、前から、その宝剣の事を気にいっていた
みたいだが」
シグムントは剣をユリアに渡す。
「まあ、寝ぼけてぼーっとしながら剣を振り回したりはするなよ?
せっかく良くなったんだから」
「分かった」
「じゃ、おやすみ、ユリア」
シグムントもやっと安心したのだろう。その部屋から出て行った。
今度は窓からではなく、入口から。

ルークはシグムントがいなくなったのを見届けると、剣を握りしめる。
「なあ、俺はどうしたらいい? 俺は、あの世界の事をそのまま預言に
記すべきなのか……?」
(……やっぱり、そうだったのか……)
ガイは、やはりルークであった少女を見つめた。
「でも、その通りに書かないと、この世界は滅びてしまう。ガイ
だったら、どうするだろうなあ。ジェイドだったら……」
ガイは、ルークが自分だと気が付くよう、剣を光らせた。
「励ましてくれるのか? ありがとな。
それにしても、ユリアさんには、さ? 両親っていたのかな。
どこにいるのかな。
なんで、何もユリアさん自身に関する情報がないのかな」
とすっとルークはベッドに行儀悪く寝っ転がる。
「やっぱり、ダアト達が言っていた”戦争”とかで……。ま、
とりあえず、バルフォアさんに聞いてみるしかないか。こうなるんなら、
もっと、創聖歴あたりのことを勉強してれば良かった……。ユリアさん
の事も」
ルークは宝剣に語りかけ続ける。
「なあ、お前に名前をつけてもいいか? ガイって」
(俺はここにいる……!)
ガイはルークに言いたくて仕方なかった。
(ルーク……!!!!)
俺だったら、お前がどんな姿になっても気が付けるのに。
たとえ、月になっても、花になっても。レプリカだとしても。
「お前なら、あっちの世界にいるガイ達に連絡とれるんじゃないかな。
ガイが持っているはずなんだから……」
ピカピカ、と点滅をし続ける。ガイ、と同じ回数を。
「……!」
ルークはやっと気がついたようだった。
「お前、もしかして、本当にガイなのか!?」
ピカピカ、と力強く光らせる。
「……ガイ……!」
泣きだす表情は、ルークそのものだった。ルークは剣を鞘ごと抱きしめる。
「お前だったんだ……! お前、だったんだ……!!!!」
ルークの顔はぐしゃぐしゃに濡れていた。何も語りかけられないのが
悔しい。
「お前も人の姿に戻れないか、バルフォアさんに聞いてみる!
何しろあのジェイドのご先祖様だぜ……!? 出来ない事ないはずさ……!」
ルークの笑顔が見れて、ガイは安心した。
「お休み、ガイ。明日からも頑張ろうぜ」
ルークは安心したのか、すぐに寝息を立てはじめたのだった。

「ガルディオスには気の毒かもしれませんが、彼女はダアトの元に
送ります。全ての記憶を消して、ガルディオスの事も忘れさせて」
バルフォアは、執務室で一人、文書をまとめながらそうつぶやいたの
だった。