だけど、ぶんぶぶん!!!! それでもしゅわしゅわ!!!!☆彡

いつもポチポチありがとうございますm(__)m。
http://www.aska.gr.jp/~jjweb/cgi-bin/diarypro2/diary.cgi?no=740 ←前編はこちら。
「浮かない顔ですわね、ガイ」
庭で土いじりをしていると、突然背後から声をかけられ、
ガイはびくっとした。
「……ナタリア様、どうしてここに、と言われてもだいたい想像はつき
ますが」
「公爵夫人から、話は聞きました。私に、提案があります」
「……お伺いしますよ? 私でも解決できることでしたら」
「古代イスパニアに伝わる伝統に、ハロウィーンなる仮装パーティーが
あると聞きました。もともとは宗教的な意味合い、などが強いもので
あるようですが、宗教的な意味合いを拡大させて、ユリアを祝うために
みなの者が平等で祝えるよう、仮装をする、というのです」
「仮装、ですか……。でも、声で分かりますよね」
「その間は、たとえ王と使用人と言えども無礼講。敬語は禁止。
敬語はユリアだけに使うものとする、というのはいかがです?」
「なるほど。ルークぼっちゃんがどんなに粗相をしたとしても、
許されるというわけですね」
「この日だけは、という限定ですがね、ガイ」
「ただで、すまされないんでしょうな。ナタリア様にいたっては、
”わたくし、ルークの花嫁さんになりますわ”とかなんとか」
「あら! なんで分かりましたの、ガイ」
「見え見えですって。むしろそっちの方が目的に思えます」
「しかたありませんわね……。あなたには、”ルークの兄”になって
もらおうと思いましたのに。もちろん、一緒に食事もできますわ」
「……ルークの兄……かなわない、夢かもな」
「それならなおさらのこと! この日だけは、本当の兄として、
ルークと接することができますのよ」
「まぁ、それはいいとして……。問題はおぼっちゃんだなー。
どんな格好をさせればいいか。あ、いっそのこと、デビルっ子なんて
どうだ??」
仮装しなくても、充分デビルっ子だけどな……とガイは思う。
「いいですわね、それ! さぞかし似合ってかわいいことでしょう」
「話が決まれば、さっそく準備にとりかかりましょう、ナタリア様!」
「ペール達にも手伝ってもらいましょう!」
「仮装パーティー、だと? この私もか?」
ファブレ公爵は、眉間に深くしわをよせる。誰かの顔にそっくりだった。
「はいっ、そうですわ。これは父からの提案でもあります。ルークの
部屋でみんなで仮装をしながら食事をしあい、互いの親睦を深めるという
ことですわ」
「王の命、とな……。むぅ、一風変わった食事だが、仕方あるまい……。
シュザンヌ、まさかとは思うが、お前が何かそそのかしたりしていない
だろうな」
「何をおっしゃいますの? ナタリア様はただいま古代イスパニアの
文化を勉強されていて、その勉学もかねて実習したいともおっしゃられ
ました。何か不服でもございますの?」
「古代イスパニアにそんな文化があったか……?」
「あなたもまだまだ勉強不足ですわね。それならなお丁度いいですわ。
ナタリアと共に体験なされなさい」
「……しかたあるまい。気はのらぬが、辛抱しよう」
「そこで、公爵! このくじを引いてください。ここに、公爵の
担当する仮装のテーマが書かれています。それぞれ違うものですので、
一つだけひいてください。われわれも一本づつひきます。さて、私
からですわ。……花嫁ですわ! 最高です! ナタリア、がんばります
わ! ルークのために!」
「むむ……」
公爵は、花嫁にあたらなくて良かったと心の底から思った。
「では次は私ですね。あらあら……パン職人ですわ。丁度新作のパン
を作ったところです。性がでますわ」
「シュザンヌはパン職人か。次は私だな……。むむむむっ……!?
なんだこれは?!?! 公爵たる私が、使用人だと!!!!」
「民の気持ちを学ばれる、いい機会ですわ、公爵♪」
ナタリアはくすくすと笑う。最初から、ちゃんと自分たちが目当てのものを引けるよう、公爵には分からない目印をこっそりつけておいたのだった。
「……し、使用人、とは、どのようなことをすればいいのだ……」
「簡単に言えば、ルークの世話係ですわ」
ナタリアは、シュザンヌと目を合わせて微笑みながら、きっぱりと言う。
「息子の世話係だと……! 私がか!」
「丁度良いではありませんの。普段なかなか息子と接する機会がありません
でしょう? ルークの事を知る、いい機会でもあると思うわ」
「シュザンヌ……」
こいつらまとめて、グルだな、とファブレ公爵は気がつくがもう遅い。
「で、では、ルークとガイは、なんの役だというのだ」
「ルークはデビルっ子兼、王様。ガイは王様の兄上ですわ。丁度、あなたと
王みたいな立場ですわね。ルークに、王様の練習をさせることもできますわ」
「……」
反論の余地がなかった。
「本当でしたら、ガイを公爵家の養子にしたいくらいですのよ。
ルークの本当の兄として」
「シュザンヌ……!」
「公爵夫人!!」
ナタリアも公爵もシュザンヌをはっと見つめる。
「ですが、本人はそれを望んでいないでしょうね。兄では親友には
なれないでしょうから」
「これが、母というものですね。怖いですわ……」
見ていないようで、しっかりと見られている。
本当に、ガイが公爵家の養子になれればいいのに、とナタリアも思った。
「なぁーガイー、このふく、ひらひらしてすーすーするー!」
デビルっ子の衣装をガイに着せられながら、ルークはぶーぶーと文句を
言っていた。
「パーティー用の衣装なんだから、がまんしろよ? いつもと違う
服、嬉しいだろう?」
「うれしい、けど、なんか、ぼくじゃない、みたい」
「どうした? パーティーの主役なんだろ?」
「ガイも、いつものガイじゃないみたい……。キラキラしてて、
……ちちうえ、みたいで、やだ。こわい」
「……」
父上みたい、という言葉にどきりとした。自分も、あの人殺しを
たくさんした人間と同じように見えるというのだろうか。高慢な人間の
類に。
「いつものガイがいいー!」
「そうか、ありがとな。でもそれはそれ、これはこれ」
「いやだーーーーー!!!!」
「……ルーク!」
足らない言葉を、自分の言葉でせいいっぱい言っている。でも、肝心な
自分は、ルークが本当に言いたいことを、見つけることができない。
「ぼくは、にせものじゃないもん!」
「……にせもの? 何言ってるんだ。衣裳が変わるだけだろう?」
「それは、うそ、だもんっ」
「ありのままのルークでいたいってことか」
……やれやれ、とガイはルークをだっこする。
「なんでそんなに嫌がるんだ? パーティーの時は、俺とおまえ、
兄弟になれるんだぜ?」
「うそっこだもん……」
またべそをかきだした。
「うそはいけないって、ははうえいってたもん……!」
「ルーク、世の中にはね、いいうそと悪いうそがあるんだ」
「いい、うそ?」
「人を傷つけたくないから優しく言ううそだってある」
「……わかんない」
「ようするにだ。ルークもその衣装でパーティーに出れば、みんなが
喜んでくれるってことさ」
「みんなが、うそで、よろこぶの?」
「……ああ」
「にせものの、ぼくでもよろこんでくれるの??」
「……ルーク……」
自分でも、どっちが正しいのか分からなくなってきた。本当であれば、
ありのままのルークをみんなの前でどうどうと見せることができたらなと
思う。
「じゃあさ、俺とお前で、みんなに嘘をつこう!」
ガイは決意を固めた。
「本当っていう嘘を、さ!」
ガイは、頭の中の霧が晴れたような気がした。
「楽しみですわあ。私の花嫁姿を見て、ルークはなんて言うかしら!
あの時の言葉を思わず思い出してくださったりして!」
「私は、この格好を一秒たりともはずかしくてしていられぬ。シュザンヌ、
お前までパン職人のくせに、なんでわざわざそんなメイドの格好まで
しておるのだ!」
「これは私の独断です。一度でいいから着てみたかったのよ」
似合いすぎるというのもいささか問題だな、と公爵は横目で見る。
皆でルークの部屋におしかけている最中であった。
「それにしても、なぜ陛下はこういう時にダアトに訪問などに行くのだ!
王が不在では話にならぬではないか!」
「もう、なんでもいいではありませんの! 今日のこの日を楽しく
過ごしましょう!」
「ルーク、入りますわよ、準備はできていて……!?」
「……!」
一同は、何も変わらぬ普段のルークの部屋のままの様子に、立ち止まる。
ナタリアさえ、言葉がでないようだった。
「これは、どういうことですの、ガイ……ルーク……」
そこには、パジャマの姿のままのルークと、使用人の格好のままのガイが
ベッドの上に料理を広げて笑顔で出迎えていた。
(陽だまりが、見える……)
公爵は、普段の暗い城とは全然違う、温かい日差しの中に座る天使を
垣間見る。
「ようこそ、われらがルークの部屋へ! 公爵御一行様……!」
「ちちうえ、ははうえ、ナタリア、いらっしゃい!」
「まあまあ……! あなた達……!」
公爵夫人は思わずハンカチで目をぬぐった。
「本当の、兄弟に見えますわ。負けました! ナタリア、出なおして
来ますっ!」
ナタリアは、しばらく部屋から出ると、戻って来た時には普段の衣装
だった。
「これ、ぜんぶ、ははうえがよういしてくれたパン……! おいしーよ!」
「シュザンヌ、お前いつのまに……」
公爵は、もう何も言う事ができなかった。あっぱれ、ということしか。
「あなたも、王のためを思っていることは、すなわちルークのためを
思っていることだって素直に認めればいいですのに」
「う……うるさいっ! 私も出なおすぞ、この格好では私が本当に
使用人ではないかっ」
「だめです。そうはさせません。私のパンを食べるまでは」
「……っ」
公爵は、そわそわとしながらもルークの隣に腰掛け、そしてルークを
膝に乗せた。
「ちちうえだ! はい、ちちうえにパンあげる! あーん、して?」
「……」
公爵は顔が耳まで赤い。ぱくっと勢いをつけて一口でたいらげる。
「すごーい! ひとくちでたべちゃったー! かっくいいー!」
「そうか、ルーク、かっこいい、か?」
「ガイ、みたい」
キラキラ、と目が輝いていた。
「ルーク、お前、いつもこんな小さな部屋で、一人ぼっちだったんだな。
さぞかしさみしかったろう……」
あらためて、余裕ができた公爵は部屋の中を見回した。ここから見える
空は、あまりにも小さかった。
「さみしくなんか、ないよ。ガイがいつもいっしょだから!」
「そう、か。でもな、ルーク。たまには父上の事もさみしがってくれよ?」
「そうする! ぼく、みんな、だいすき!!」
「……」
「心が通じ合うのに、時間は無意味だというのはどんな親子でも一緒
なんだな」
ガイはうらやましそうに、公爵と、その息子を見つめていた。
「心が通じ合うのに、家族でなければならない、というものでもありません
よ、ガイ」
「公爵夫人……」
「ルークはまだ小さくて、あなたに頼ってばかりの部分があるけれど、
それが心が通じ合っていることだ、という思い違いはしないでくださいね。
本当に通じ合うその時は、ルークがルークとして、本当に成長できた時
が大切なのです」
「公爵夫人……俺も、まだまだ、ということですか。たしかにあなたには
脱帽ですが」
「王家に仕える者は、いつか戦地に赴いた時、いつ死ぬ運命にあるか
わかりません。あの人も、私も。もしかすると、ルーク一人だけになって
しまうことも、あるかもしれない。でも、あなたなら、どこまでもずっと、
ルークと共に歩んでくれると、信じています。ガイ……」
「公爵夫人」
「私達の代わりに、ルークの傍にいつまでもいてやってくださいね」
「……」
今思えば、ルークがにせものや嘘が嫌いだと泣きじゃくっていたのも、
頷ける話だと思った。本当は、自分が偽りの人間だったからこそ、
「本物の自分」という嘘を演じたかったのかもしれない。無意識の
うちに、気が付いてる部分があったのかどうかは分からないが。
とりあえず言えるのは、その日以降、俺は可能な限り、ルークと
一緒に食事をした。ルークがちゃんと普通に家族と一緒に食事を
できるよう、教育もしながら。本当に、家族で食事ができる日を
夢に見ながら。
旅の途中、仲間と楽しそうに食事をしているルークを見ていると、
今の仲間がルークにとっての本当の家族なんじゃないかって
思う時がある。
ファブレ公爵は、とある難題に頭を抱えていた。
「あなた、あまり考え込むと、体に毒ですよ」
「考え込まずにいられるか! 陛下のご家族との会食に、ルークだけ
出さないわけにもいかぬだろう」
「事情が事情ですし、お断りしても仕方ないと思いますし」
「あれの婚約者も出席する会に出席させないでどうするというのだ!
公爵家の今後にも関わりかねない」
「……しかたのないこと」
ファブレ公爵夫人はためいきをついた。自分は、そんなことにはこだわら
ない。だが、一度考え込むと、なかなか答えを出せないのが彼の悪い
癖だなと思う。まぁ、そこが人間らしいといえるのだが。
「一度、ルークと食事をしてみて、考えられたらいかが?」
「……!」
ものすごく、やる気のなさそうな顔をしていた。(こういうところは
子供ねぇ~とくすりと笑う)
「食事をしている間に、学んだ事を思い出すかもしれないでしょう?」
「身が覚えている、か……」
いささか嫌な予感がするが、と公爵は顔をしかめた。
「ええ、ルーク様をご家族と一緒に食事をさせるですって!?」
ガイは思わずショックのあまり、抱えていた荷物を足下に落としてしまった。
「……あだっ、あだだだ……冗談でしょう、公爵夫人! ルーク、様は、
まだフォークもナイフもなんだか分からない状態なんですよ? それが
食べ物だと、口に入れてあげなければ見分けがつかない……」
「どう考えても無理なことは無理だと分かってはいます。
ガイ、あなたの知恵で、なんとか王家の方々とルークが一緒に食事を
しても、ルークが困ることにならないように、考えてもらえませんか?」
「公爵様の心配よりも、ルーク様の心配なんです、ね」
「当然でしょう。もっと大人になってもらわないと困るのはあの人の
方です。ナタリアと相談してみてもかまいません」
「……」
ガイは頭を抱え込む。
「一度、ご家族の方々と一緒にルークを食事させてもらえませんかね?
私がサポートします。それでもだめだったら、別の手段を考えます」
「やはり、あなたもそう思うのね?」
くすり、と公爵夫人は微笑み、その場から立ち去った。
「どおったの、ガイー、ははうえ??」
公爵夫人にとっては、無垢な天使に見えるんだろうな、と思いながら、
ガイは自分にがしっと抱きつくやんちゃな小悪魔をじろり、と見下ろした。
「俺はお前に、黒い羽根と黒いしっぽが生えているようにしか
見えないんだが」
「しっぽ?? しっぽってな~に??」
好奇心旺盛なルークを無視し、テーブルの上にちらかった絵日記帳を
片付ける。どうせ、まだ何も描かれていないに決まっている。食事の
あとにやらなければな、とため息を吐く。
「……まずはっと。ルーク、ご飯の時間だよ? テーブルのところに
行って?」
「やだーーーーーーー!!」
いつものお約束が待っていた。ご飯の時間になると、決まって一番に
だだをこねる。まぁ、面倒な動作が多いのが、嫌な原因につながっている
のだろう。
「おなかすいてないもん! まだ、あそんでるの!」
「じゃあ、いい事を教えてあげよう。このお食事がちゃんとできたら、
ちちうえとははうえと、一緒にご飯が食べられるよ?」
「ちちうえ、と、ははうえ・・・・・・? ははうえ!」
どうやらまだ、母親の認識だけでせいいっぱいのようだった。これでは
父親と対面するだけでも混乱してしまうかもしれない。
「ははうえといっしょ! ガイもいっしょ!」
「いや、俺はいっしょじゃないよ。家族じゃないから」
せいぜい、サポートはするが、一緒の席にはつけない。みんなが食べている
間、パンの一欠片も手に取ることは許されない。
「ガイ、かぞく!」
「……!」
困ってしまうのはガイの方だった。血のつながっている両親よりも、
自分の事を一番の家族のように思っている無邪気な子供。
身分の壁というものを知らない。
(昔は、こうじゃなかったんだけどな……)
昔の彼を知っていた分、複雑な心境である。まるで別人……別人だと
割り切らなければ、やっていけなかった。
ルークが、公爵家の人間ではなく、自分の本当の家族なら、どんなに
いいかと思う時はこういう時だった。でも、すぐに、ルークの泣き声で
現実に引き戻される。
「ぴぎゃーーーーーー! にんじんいやーーーーーーーーーーー!!!!」
がっしゃーん、とお皿が部屋中に散乱した。スープに入ったにんじんだけを
すかさず認識したのであろう。
「ルーク! なんてことをするんだ!」
「っ!」
ガイのどなり声に、びくっと体をこわばらせる。視線があった。
目にいっぱい涙をためこんで、爆発寸前だ。
「ご飯、いらないっ」
「……食べないと、死ぬぞ」
ガイは、しかたなく皿を拾い集め始める。
「しぬってなに?」
ルークは、食事をとることにあまり興味をもたない。食事そのものを
知らない、というよりも、生きることに貪欲じゃないんだろうなと
ガイは思う。自分は、どんなことをしてでも食べて食べて生き延びたい、
というのに。
「……」
どす黒い感情が湧きおこるのをガイは必死におさえた。
「どこにもいなくなってしまうということだっ!」
「ガイ!?」
こんなところからいなくなってしまいたいのは自分の方だ。
復讐……復讐のために潜り込んだというのに、自分は非力すぎて
何もできない。ぺールから教わった剣術も、剣を持たなければ意味が
ない。
「いなくなっちゃ、やだ!!!!」
部屋から飛び出そうとしたガイを、ルークは必至でひっぱっていた。
「ガイ、しんじゃいやだ!!!!」
目の前からいなくなる=死んでしまう、と解釈してしまったのだろう。
「ガイがいなくなるの、やだーーーーー!!」
こんなに、冷たい態度をとっても、どうしてこの無邪気な子供は、
自分が傍にいてほしいと、ほっするのだろう。まるで、食事をすること
への意欲がそちらへ移ってしまっているかのように。答えを出しかけた
その時、ガイを優しく抱きしめる両手があった。
「ははうえ……!」
「公爵夫人……」
「ルーク、パンを持って来ましたよ。母上が作ったとっておきの
パンですよ?」
「ははうえが? …たべたい!」
「さ、ガイも、一緒に」
ルークのベッドの上に、三人並んで腰かける。
「ルークは、みんなと、それからガイとも一緒に食べたかったのよね?」
「うんっ! ガイ、かぞく! ははうえといっしょ!」
公爵夫人は、一つのパンを、三つに分けると、ガイとルークに渡した。
「さ、みんなでかぶりつきましょう? ナイフやフォークなんて、
面倒すぎるわよね!」
「うんっ!」
「あ、ルークが、自分から食べた……!」
ガイは思わず、自分のほほに涙が出たことに気がついた。
「あ、っまーい! おいしー!!」
「公爵夫人、これって、あれが入ってますよ、ね……」
「ルークにはだまってて、ね。これは、みんなの、秘密♪」
「ひみつーーーー!」
「ね、ルーク、今度は父上とも一緒に食べてみたいわよね?」
「うん。ちちうえも、ここでいっしょに食べたいー!」
「そっか……ルークは、みんなと一緒に、食べたかっただけなんだ。
一人で食べていちゃ、そりゃ、食欲もなくなるよな」
ルークに様をつけないことを、公爵夫人は気にしてないようだった。
「そうね。ガイはあくまでも、その時は一緒に食べてくれなかった
でしょう? 一人で食べているのだもの。仕方ないわよ。これからは、
ルークと一緒にご飯を食べてあげてね、ガイ」
「ええ、もちろんですとも!」
あのときに感じた、どす黒い感情が、いつの間にか消え去っていた。
「あの人にも、このルークの笑顔を、見せてあげたいわ」
「あ、そうだ、ルーク、いい記念ができたなぁ! これを日記に
すればいいよな?」
「たのしいこと、かく!」
日記を書きたがらないのも、食事のことと一緒だったんだな、とガイは
理解する。書きたくなるようなことがなければ、書けないに決まっている
じゃないか。
「ルークみたいな存在が本当の王様になれる日が来ればいいのにな」
ガイは、身分の壁すら関係なく自分と接する、そんな王が生まれる日を
望んだ。
「そうだ、陛下や公爵を、ルークの部屋に招待したらいいんじゃない
ですか? そうすれば、ルークだって困らずにすむ」
「それはいい考えね、ガイ!」
「ただ、公爵が納得してくれるかが……」
「大丈夫。その辺は私がなんとかするわ。だてに公爵夫人じゃないです
からね」
「……」
「そういえば、ガイ、あなた、私といても平気ね? これも
いい傾向かしら??」
「そ……そういえば、ルークのことでてんぱってて忘れていたけど…
…ぎゃああああああああーーーーーー!!!!」
「あらあら……」
「ガイ、たのしそう・・・・・・」
後編へ、つづく☆
「アニスー! 遊びに来たよーー!」
緑色の髪の毛の少年が、一同の集まるファブレ公爵家の客室へ
とやって来た。少年は、アニスにおもいきり抱きつく。
「イ…じゃなかった、フローリアン!? よくここまで来れたね!」
「うん。いろいろと、ピオニー陛下も取り計らってくれて」
「……だんなの差し金か?」
ガイはジェイドをじろりと見る。
「あのレプリカバードに盗聴器でもついていたんですかねぇ?
放してやって良かった良かった。この
私にも見破れないような。ともあれ、フローリアン様、遠路はるばる、
よくぞお越しくださいました」
「ジェイド! うん、僕、超・タルタロスにも初めて乗ったよ!
すごいね! 僕、すごく楽しかった!」
「……超・タルタロスって……」
一同はジェイドを見つめる。ジェイドは知らぬが仏だ。
「あいかわらず、くえないだんなだな」
「なにかいいましたか? ガイ」
「いいや。それにしても、わざわざフローリアンをここまで来させて、
どうしようって言うのさ」
「お互いに、いろいろ思い出せればなと。ま、いわば人体実験? って
いうところですかね♪」
「お互いにって。フローリアンは無理じゃないのか?」
「いえいえ、これは今後のレプリカにとっても重要なことですよ。
万が一、同位体のオリジナルが消えた後でも、レプリカの中でオリジナル
の記憶が蘇るかどうか」
(可能性は、一つでも多く残しておきたいですからね、ルークの
ために……)
「アッシュが死んだとしても、その記憶がルークに蘇るかどうか、
ですわね?」
ナタリアも真剣にジェイドを見つめる。
「もしくは、その逆もありえるかどうか。まあこちらはコンタミネーション
によってありえる可能性ではありますが」
「ところでルークは?」
ティアはあたりを見渡す。どこにもいないので、一同はルークの部屋へと
集まった。
「おれはこーこーだーよ! おにさん、こちらーーーー!!」
ルークのこもったような声がどこかから聞こえる。
一同は、ルークのベッドの中を見下ろすようにじっと見つめた。
「ルーク! お客が来ているぞ! 隠れてないで出て来なさい!」
ガイはわざと見つけられないふりをしてあたりを見回しながら声を
はりあげた。
「おきゃく……? だあれ??」
がさごそと、ベッドの下で物音がすると、そろっとシーツの下から
顔を出すルーク。ガイは目の前で待ち構えていたかのようにルークを
ひっぱりあげた。
「捕まえた!」
「わわわわっ! ガイーーー! ずーりぃーぞぉおおおおーーーー!」
「やっと俺の名前は覚えてくれたね、ルーク」
むすっとするルーク。ガイの背後に、見知らぬ少年を見つける。
「やあ! おまえもかくれんぼ得意か!?」
「ルーク! はじめて会う人には、ごあいさつ、だろ? こちらの
方は、”イオン様”って言うんだ」
「!!」
一同はびくっとフローリアンを見つめる。
「ガイ、私のやりたかった事を、ちゃんと理解してくれていたようですね」
「いおんさま・・・・・・? なんか、かっこいい名前だな!
おれは、ルーク。ルーク・・・ふぉ・・・えーとととと・・・・」
「はじめまして、ルーク。僕はイオンと言います。昔あなたと友達
だったので、お見舞いに来たんですよ?」
「……イオン様……!?」
アニスは思わず目頭が熱くなった。本当に、そこにイオンがいるとしか
思えない物腰だったからだ。
「おまえと友達だったのか、おれ・・・! すごいなー! おれって、
どうやっておまえとお友達になれたの?」
「……」
フローリアンは助けを求めるように、ジェイドを見つめる。
「ルーク、それは、あなたが思い出さなければなりません。それを
思い出してもらうために、イオン様に来て頂いたのです」
「ちえっ! たりいってぇーの! 思い出さなくてもさ、友達なら友達。
それは変わらないじゃん!」
「ルーク……」
ティアは思わずルークを抱きしめる。ガイも、ぽんぽん、とルークの
頭を優しくたたいた。
「大佐、私、このままのルークでもかまわないような気がしてきました」
「ああぁあ、ティアがルークの無邪気さにメロメロになっちゃってるぅー」
「でもなんか、昔の長髪の頃のルークが顔を出したような気がしましてよ。
このままあのルークになってしまってもいいというの? ティア」
「そ、それは困るわ」
「お前ら、ルークはペットじゃないからなー」
ガイはため息を吐く。
「ルーク、いいですか。イオン様とは前に会った時、どんなことが
ありましたか……?」
「どんな・・・・・こと・・・・・?」
「ジェイド、それはフ……イオン様にも辛いことじゃない!? やめてよ!」
アニスはぎゅっとフローリアンを抱きしめる。
ルークは、一瞬腕の中で辛そうにほほ笑むイオンの姿が脳裏に横切った。
「うわあああ……! ……イオン…………!?!?」
ルークは頭を抱え込むと、ガクガクと体を震わせる。
「こわい……こわいよぉおおおおーーーーーー! イオンが……
イオンが……消え……ちゃ……」
恐らく、自分自身が消えてしまう恐怖と同じように感じているのだろう、
とジェイドは冷静に思う。
「私なら、ここにいます、よ、ルーク」
アニスからそっと離れたフローリアンは、本当のイオンのように、
ルークに手を差し伸べた。
「『僕は今、第七音素の世界から語りかけています。ティアの第七音素を
吸収したことでそこにいます。ルーク、僕はいつまでも、あなたの
周りにいますよ、だから、安心してください』」
「イオン……?」
ルークは、ゆっくりと抱え込んでいた両手を放してイオンを見上げた。
「イオン様……!?」
「『僕は、僕なりに、第七音素の世界を変えようと努力しています。
ローレライの中に、僕もいるかもしれない。いや、ガイさんのお姉さん
も』」
「姉さんも……!?」
ガイは驚いた。
「ふむ、第七音素の世界とは、興味深いものです。さらなる研究の
し甲斐がある」
「『ルーク、あなたが、記憶がなくなっても友達は友達だと言って
くれたことが、僕にとっても、このフローリアンにとってもどんなに
救いになったことか。自分の日記を読みなおしても、他人ごとのように
しか思えなかった記憶……。記憶がなくても、ルークはルークです。
僕の親友です。そして、いつの日か、僕があなたの目の前から消えて
しまったとしても、ずっとあなたは友達でいてくれるでしょう?』」
「イオン……俺がいなくなっても、ずっと友達でいてくれるか?」
「『ええ、もちろん!』」
「俺が、いなくなっても、ずっと友達でいてくれるか、みんな!?」
「ルーク……!?」
切羽詰まった表情のルークに、一同は駆け寄る。
「思いだしたんですね」
「ごめん、俺、お前達を試してた。今の俺じゃなくなっても、
今の俺じゃなくても、受け入れてくれるのかって」
「ルーク……あたりまえじゃない。だからこそ、みんなルークに
ついて来たのよ」
ティアはルークの両手を握りしめる。
「命の重みは、俺だけじゃなくても同じなんだよな。アッシュだって、
ヴァン先生だって、今まで倒して来た六神将だって、……レプリカに
だって」
「そうだよルーク。トクナガにも命の重みはあるよ?!」
「アニスが一番こきつかってるくせに!」
「それはそれ、これはこれ!」
「自分自身がさ、青い鳥にならなくちゃいけないんだ。自分自身が
飛ばなくちゃいけない」
「ルーク……」
「俺は、俺だけの命を、せいいっぱい生きる! 人形のように
自分で何もしない人生にはしない」
ルークは、フローリアンを見つめた。
「ありがとう、イオン……そして、フローリアン」
(そして、俺は……またみんなに会える時が来るかな……。
いや、自分でそれをつかみとるんだ……! それまで、あがいてあがいて
あがいてあがいて、もがき続けてやる……! そしてイオンと
一緒に、戻るんだ…………!)
そして、いつか、自分が青い鳥となって、空を自由に飛びまわれる
日が、来るのだろうか。
END.
(あれ、おかしいな、俺、体が動かねえ……。まるで、アッシュの
中に閉じ込められた時みたいだ……)
目を開こうとしても体が動かない。
「ルーク、お前の部屋に着いたぞ」
(ガイ……?)
どうやら自分の部屋に戻って来たようだった。ガイに応えようとしても、
口が動かなかった。
(あれ……?)
だんだんと、心の中が狭くなっていくような奇妙な感覚。まるで
アッシュ、いや、自分自身の中に檻ができたようだった。
(ガ……イ……みん……な……)
どこまでも続く深淵へと引きずり込まれていく。ルークは闇の海の中
に沈んでいった。
(俺、消えちまうのか・・・・・・? やることやる前に・・・・・・?)
フォニムの消滅がこんなにも早い速度で進行しているとは思っても
いなかった。いずれは自分はイオンのように消えてしまうのだろうか。
ルークは答えを見つけようとしたが、それ以上答えを見つけ出すことは
できなかった。
「ジェイド、どうなんだ? ルークの様子は」
ガイはルークに蒲団をかけるとルークの脈を測るジェイドに尋ねる。
「……」
ジェイドは今にもまして、神妙な面持ちだ。
(まさか、フォニムの消滅が、こんなにも早く始まるとは……このまま
では、ルークが消滅するのも、時間の問題……?)
「ジェイド!?」
「え、あ、はい?」
「大佐が動揺するなんて、意味深ですぅ」
「ガイ、アニス、すみません。ルークは今落ち着いたみたいですね。
まるで、夢を見ているかのようです」
「大佐が断定的な言い方をしないなんてめずらしいこと」
ナタリアに指摘され、びくっとする。
「大佐がびくっとするなんて、キャラじゃないですぅ」
女性陣はするどくて困る、とジェイドはため息を吐いた。もしかすると
すでに知っているのでは? と思われる時もたまにある。知らないふりを
しているだけでは、と。
「ま、私にも未知の領域ですから。でも、未知であるからこそ、解明
できるというものですよ、みなさん」
「それでこそジェイドだな!」
ガイも安心したようだ。
(私はみなさんの保護者じゃないんですがね……。頼りにされすぎる
のも困ったものです。青い鳥……ですか……)
しばらくジェイドは考え込んで。
「城の者達に、ここ最近”青い鳥”が現れなかったか聞いてみたら
いかがでしょう」
「なるほど! 頻繁に来る鳥なら、好都合、というものですわね!」
「みんな、さっそく行きましょう!」
ルークを残し、一同はその場からさっそく離れた。ジェイドを残して。
「真実を知っていると、つらいものですね……。青い鳥などいたって、
治りはしない……。鳥にだって不自由はあるものですよ、ルーク」
ジェイドは青とはまったく対照的な、焔色の髪の毛を優しくなでるの
だった。
「ありとあらゆる人々に尋ねてみましたけど、青い鳥はみたことが
ないということでしたわ」
それから3時間後。疲れきった一同が再び部屋に戻って来た。
「森の中や洞窟ももぐってみたけど、一羽もみかけなかったな」
ガイも服のあちこちに枝をさしている。
「私も、教団の人達に協力してもらったりしたけれど、だめだったわ。
アニスがまだ戻って来てないようね」
「アニスちゃんやりましたぁー! 青い鳥、げっとお!!」
勢いつけて、部屋に飛び込んできたアニスの手には、青い鳥の
入った鳥籠が握りしめられていた。
「アニス、どうしたの、それ」
「すっごいでしょー! 街で聞きこみをしていたら、漆黒の翼さん
達が1万ガルドで売ってたもんだから、ぜったいにサバ読んでる、と
思って首根っこつかまえて吐かせたら、ただでくれちゃったー!
アニスちゃん、さすが!」
「ただの青い鳥を1万ガルド……。わけありじゃないわよね、アニス」
「ぎくくっ」
「まさか、教団の実験で作られた、レプリカバードじゃありませんよね。
私の目はごまかせませんよ、アニス」
「た……大佐……。わ、私はレプリカの鳥さんだなんて、知らなかったもん! ただ、ルークの目を覚ましたかったんだもん!! なによ、大佐。
大佐だって変だよ! ずっとルークのことに協力的じゃないじゃん!
なんで!?」
「アニス……」
「あ……でも、すごいぞアニス。この鳥、きっと、ルークが昔見た
青い鳥と同じだぜ! もしかして、その時の鳥のレプリカだったりな……!」
「アニスちゃん、余計落ち込んだ」
「まあまあ、みなさん落ち着いて。ここはこの鳥のさえずりを、ルークに
聞かせてみましょう」
ピーコロコロコロコロコロ……ピピーピピピピピ…………
「まあ、なんて素敵な音色なんですの! レプリカだろうが本物だろうが
関係ないですわ!」
「ほんと。心が洗われるよう……」
「私も心地よく眼を覚ませそうですぅ」
「……ルーク?」
一同は、ルークを見守る。
(なんだろう、この光は……? 音が光を運んで、来る)
闇の中に光が差し込んだ。
ルークは、その光に向かって必死に泳いで行く。
「あ……」
「ルーク、私達が分かりますか!?」
「みん・・・な・・・・・・?」
「やったああああーーーーーーー!!!!」
一同は手をたたき合って喜ぶ。
「あれ? ……おれ……?」
「ルーク、やったな、よくがんばった……!」
だが、ルークはきょとんとみんなを見つめているだけだった。
「……!」
ジェイドは、最悪の状況に陥ったことを悟る。
「ここは、どこ・・・・・・? おれ・・・・・・は・・・・?
あんたたち、だれ・・・・・・??」
「ルーク、冗談もほどほどになさい……! この私のことは
いくらなんでも覚えているでしょう?」
「・・・・・・・」
ルークはただ、首を振る。ナタリアはその場で気を失った。
「最悪の状況になることも考えておきなさいと言っておいたでしょう」
ジェイドは、ナタリアを支えた。
「あっ、青い鳥だ……! すっごいなあー。おれ、初めて見た……!」
まるで、子供のようにベッドから飛び降りると、ルークは鳥籠
めがけて走って行った。
「まあ、目覚めてくれただけでも、たいしたものですがね」
鳥籠の傍にいたはずのルークが、飛びつくように、ジェイドにしがみつく。
「ねえねえおじさんっ、さっき、鳥の泣きまねしていたの、おじさん
でしょ? すっごくうまかったよ! もう一度やってやって!」
「ほう、あれを私だったと見抜くとは……これは、再教育のし甲斐
があるというものですね」
「ええええー!? さっきのあれ、大佐だったのー!?」
一同は口をあんぐりとあけた。
「この鳥は、夜にならないと鳴かない種類なんですよ。それにルーク、
私をおじさんとは二度と言わないように。ジェイド、と言いなさい」
「は、はい……ジェイド」
ルークは、大佐の黒いオーラを目の当たりにして、大人しくなった。
「ところでガイ、このルークの状況は、退行何年といったところです?」
「そうだなぁ……。ちょうど半分ぐらいかな。たぶん、まだ、ヴァン
の弟子にはなってない頃だと思う」
「それはそれは。0からじゃなくて助かりました。これなら希望が持てる
かもしれません。一度、フローリアンとも遊ばせてやりたい」
「なんか、最近大佐ってルークに甲斐がいしいよね……。あ・や・し・
いっ!」
「アニス~、アニスはまだおこちゃまなんですから、ねー。おこちゃまは
おこちゃまらしく、純粋にしてなきゃだめですよー」
「純粋なアニスちゃんって似合わないもん!」
「えいっ」
「あーーーー! ルークってば、私のツインテールつかんで何する
のよおおおーーーー!! こおらー!!」
「……そういう、お年頃ですか……。まぁ、普通の人間として生まれて
いれば、今のルークはこういうお年頃になっていたんでしょうけど」
ジェイドはアニスのツインテールから、ひょい、とルークを離した。
「ルーク、いいですか?」
「ルークっておれのこと?」
「そうですよ。あなたはルーク。ルーク=フォン=ファブレ」
「るうくふぉ・・・・・????」
「私はジェイド、それにガイ、ナタリア、ティア、アニスです。
みんな、あなたのお友達です」
「ともだち……!」
幸せそうに、にこやかな顔をするルークに、ほほえましくなる一同。
「わーい! おれ、ともだちたくさんいる! わふっ」
急に、ティアに抱きしめられ、じたばたするルーク。
「なんか、お母さん、みたい……」
「ルークがこんなピュアな子だったなんて、私、ますますあなたの
ことが好きになれそう……」
「おばちゃん、むねが、めろんみたいでくるしい・・・・・・・」
「……前言撤回……! この馬鹿……!!」
いきなり離される。
「やっぱりルークはルーク、ですか」
「あはは……そうこなくちゃね……」
「大佐~もしかしてもしかすると、昔、ルークを元に戻した
のって、大佐なんじゃないですか~?」
「アニスはするどくて困りますね。そうそう。自分の作ったレプリカが
不完全だったら困りますからね。実験もかねて」
「きっと、ルークは、起きざるを得なかったんですね……。かわいそうな
ルーク」
アニスはルークを見つめた。
「でもまあ、青い鳥っていうのは目の前にいても気がつかないものです
よ。この私みたいに」
「大佐の場合は、不幸を呼ぶような気がしますぅ」
「いえ、地獄ですよ、アニス♪」
「うわああああ~」
(しかし、このまま退行していってしまうのか……もしくは、戻って
くれるのか。ルーク……あなたは非常に興味深い)
ジェイドは、こっそりと、鳥籠の中の青い鳥を、空に放つのだった。
(続く)
*ああ、なんか子安さんって、素で鳥のさえずりできそうだよな……。。。
「大佐、大変です……! ルークの様子がおかしいです……!」
旅の途中、宿に泊まった一行であったが、ルークが目を覚ましてこない
事に不審がって、アニスが起こしに行ったところ、アニスは青ざめて
戻って来た。
「ルークがおかしいのは前からです」
「大佐……! そうじゃなくて、本当に様子がっ!」
「しかたありませんねえ。私が治せるものであれば良いのですが」
一同は、ルークの眠っているベッドの傍に集まる。
「ただ、眠っているだけじゃないですか、アニス、驚かせないでください」
「ルークが! こんなに行儀よく両手両足を伸ばして眠っている事に
気がつかないんですか!? アニスちゃんに言わせてもらえば、天変地異の
前触れですよきっと!」
「……」
ジェイドはルークの片手を上に持ち上げ、そのまま手を離した。すると、
いとも簡単に、ルークの手はすりぬけてベッドの上に戻ってしまう。
「まるで、マリオネットですね」
「マリオネット!?」
「きっと、度重なるストレスによって、一時的にレプリカとしての機能
が戻ってしまったのでしょう。本来の、ルークに戻ってしまった。まして
や、自分がなっていたかもしれない本来のレプリカ達を目の当たりにして
ショックを隠しきれなかったのでしょう」
「誘拐されたルークが戻って来た頃の事を思い出すな。何も知らない
マリオネットのように、目を開けることも、足を動かすことも、手を
動かすこともできなかった」
「いやよ、ガイ……! こんな、ルークなんて見ていられない……!」
ティアがひしっとルークの両手を握りしめる。
「困りましたね。アッシュもイオン様もいない今、われわれにできる
手段はないのかもしれません。あるいは……」
「あるいは?」
「このまま、ルークをマリオネットのままにするのも、彼にとって
救いになるのかもしれないかと」
「そんなこと、だめですわ! それじゃ、今までルークががんばって
来たことが、すべて無駄になってしまうじゃありませんか! アッシュも、
……ルークまでもいなくなってしまったら、わたくし……」
「ナタリア。大丈夫だ。ルークなら、今までどんな試練だって乗り越えて
来たじゃないか。信じるんだ」
「そう、ですわね……。きっと、アッシュや、イオン様が、見守っていて
くださるわね」
「ルーク……!」
勢いあまってティアは思わず、ルークの唇に、自分の唇を重ね合わせた。
「おやまあ。さしずめ、ルークは眠り姫ですか?」
だが、どくんっ、とルークの脈が跳ねることにティアは気がつく。
「ルーク…?」
ルークの目がだんだんと開いた。だが、焦点があっていない。
「ルーク……!」
「てぃ・・・・・・あ・・・・・・・・・」
だが、そんな反応もむなしく、ルークの瞳は再び閉じていってしまった。
「ガイ、あなたは、ルークに、どんな方法で”心”を教えたのですか?」
一同の関心が、ガイに集まる。
「そうだな……。まぁ、あの時も今と同じ感じだったけど。
1か月も目を覚ます事がなくて、もうみんな諦めかけていた時、
俺がたまたま朝に見に行ってみたら、あいつはいつのまにか自分で
起き上がっていた。俺にも分からん」
「ルークらしい、ですね」
「ただ、あいつは、鳥を見るのが好きだった。その時もどうやら
鳥が勝手に窓を開けていたらしくてな。……色は青かったかな……」
「幸せを呼ぶ、青い鳥、ですか。私もある意味青いんですが鳥じゃあ
ありませんので」
「大佐、その鳥を捕まえに行くのは?」
「まずはその鳥の種類を把握することが先決です。青い鳥も何万種類と
いるのですよ?」
「大佐、現実的~」
「それが私ですから♪」
「でも、まずは、ファブレ公爵家に戻った方がいいんではなくて?
鳥にも生息地というものがあります。一番、目撃したところに行くのが
いいと思いますわ」
「しかし、危険ですね。あの場所は一番ルークにとっては鬼門のような
ところですから。今よりも最悪な事態に陥る可能性もあります」
「でも、あのお母様なら、ルークの現状をそのまま受け止めてくれる、
いえ、それ以上に受け止めてくれるはずですわ」
(たしかに、この状態のまま安静していれば、フォニムを使うことも
ない……が、ヴァンが放っておかないだろう……)
ジェイドはため息を吐く。
「ルーク……あなたなら、絶対に戻ってこれるはずです。そうしないと
いけません! 皮肉なものですね。ネクロマンサーと言われる私にも
未知なるものがまだ存在しているだなんて」
(続く)
「ほら、ルーク、面白いもの買ってきてやったぞ?」
「おもしろいもの?」
ルークは身を乗り出して、部屋に入って来たガイがポケットから出した
色とりどりのおもちゃをじっと見つめた。
「……おもしろくないよ、こんなの」
「まぁまぁ。お前、記憶をなくしてからは、風船を見るのはじめて
だろ?」
「風船?」
「ちょっと待ってな、今作ってやっから」
「!」
ガイは思いきり頬を膨らませて、赤い風船を作り始めた。
「あはははははっ! ガイの顔、おもしろいやっ!」
真剣に膨らますガイの眉間のしわを指さしてルークは転げ笑う。
「ほら、できたぞ」
ぽーん、とルークのお腹に、丸く膨らんだ風船が舞い降りる。
「!」
風船は、ルークにあたったとたん、ゆっくりとはねかえった。
「すっげえ! さっきは飛ばなかったのに?! ?? ????」
やっと風船を両手でつかまえたルークは、自分の両手の中に
収まった風船をじっと見つめる。
「これは、浮力というやつだ。空気は目に見えないけど、こんなふうに
浮かぶ力があるんだ」
「へえ~……そういえば、お風呂のブクブクっていうのも空気?」
「そうだ。でもって。その風船をちょっと貸してみ。いいこと
してやるから」
「……ちょっと、だけだぞ?」
せっかくの宝物を手放したくない、という表情で、ルークはしぶしぶと
風船をガイに渡す。ガイは、ポケットから出した長い糸を、風船の先に
巻きつけた。
「ほらっ」
「あ、飛んで行っちまうぞ?! なにすんだ、ガイ!!」
「さあて、どうでしょう」
「……!!」
風船は、ガイが持つ手の上に浮きながら止まっていた。
「面白いだろ?」
「ガイ、すげえ! 魔法使いみたいだ!!」
「お前にもできるよ」
「ほんとか!?」
「さっきみたいにやってみな?」
「お、おうっ!!」
ルークはガイからもらった黄色い風船を手に取ると、一生懸命
空気を入れようとした。だが、何十分とやってみても、いっこうに
膨らまない。膨らんではしぼみ、の繰り返しだけだ。
「口の中がいてええー!」
ルークは苛立って風船を壁にほおり投げようとする。その腕をガイに
つかまれた。
「しょうがないなあ。やってやるよ」
「……っ」
ガイのようにうまく膨らませられなかったのがよほど悔しいのだろう。
ガイは、風船をいとも簡単に膨らませると、糸をつけてルークに渡す。
「ほら、できたぞ。赤い色はルーク、黄色い色は俺、だな」
「!!」
不機嫌だったルークの顔がぱっと明るくなる。自分が持っている風船
がガイだと思うことがよっぽど嬉しいのだろう。
「中庭に出て遊ぼうか」
「うんっ!!」
同伴者がいれば、中庭で遊んでいても大丈夫だ。はだしでパジャマ姿で
いても怪我などしない。
「わあっ、風船が、おれとガイが空に浮かんでるよ!!」
ルークは今にも背中から倒れてしまいそうなほど、身を反らして
高い青空を見上げていた。
「おれも、風船になりたいなぁ」
「無理無理。風船は生き物じゃないからなぁ」
「じゃあさ、いつかバチカルの中を、じゃなくて、世界中を風船で
いっぱいにしたら、みんなも空を飛べるね!」
「そんな世界になったら、みんな幸せになれるかもな」
「おれ、この風船につかまったら、空飛べる?」
一生懸命ジャンプをしている。少しでも空に近づきたいのだろう。
「……」
ガイはルークを背負ってやった。いきなり自分が高くなったルークは
びっくりしてしまい、風船を手放してしてしまった。
「あっ! 風船がっ!」
あっという間に離れ、屋根にひっかかってしまった。
「ガイ、取って来て!!」
「さすがにあんな高いところには俺もラムダスも無理だろうなぁ」
「だって、遠くに行っちゃう!!」
ルークはガイの背中から無理やり身を乗り出して、ガイの背中から足を
すべらせてしまい、頭を打って気を失ってしまった。
「……ルーク……!!」
しまった、俺の失態だ、とガイは焦る。打った部分に恐る恐る手をやると
少し血が滲んでいた。
「ラムダス…ペール、ルーク様が大変だ……! 早く来てくれ……!」
ガイは、苦虫をつぶしたように、自分色の風船を割ると、足で踏みにじった。
「軽い脳震盪のようです。直に目を覚まされますよ」
ラムダスは、洗面器の水に浸したタオルをルークの額にあてがった。
「二度とこのような失態はないように。今後そんな事があれば、
お前はお屋敷から首だ」
「!」
ガイは青ざめる。
「給料がなくなってもいい。俺は、ここから出て行くつもりはないっ!」
「それはルーク様のためか」
ラムダスは意地が悪い。昔から、ペールにもきつくあたっていた。
用心棒も兼ねているので、体力ではどうしても負けてしまう。
「そうだ。金やプライドなんかのためじゃない」
金やプライドのために働いているように見えるラムダスには負けない。
「いいだろう。もしも、ルーク様に何かあった場合は、お前は
二度とここには戻ってこれないから、そのつもりでな」
「ああ、分かったさ」
「それからこのことは、公爵様には伝えないこととする。
お前が責任を持て」
ラムダスがいなくなり、俺はルークのそばでじっと彼の目覚めるのを
待つ。
(子育てって、難しいなぁ~……)
ため息を吐いた。体験学習をさせて理解してもらおうとしてみた結果が
これだ。つくづく自分が情けない。やっぱり本だけの勉強を中心に
するか……。ルークは嫌がるだろうが。
「ガイ・・・・・・・」
小さな声でもぞもぞと俺の名前を呼ぶ。
「ごめん……。おれ、ガイをこまらせちゃった」
「いいんだ。俺こそお前を怪我させちまって、すまん」
「もう、風船、いらない。ガイをこまらせたくない」
「ルーク……ごめんな」
「ガイだけで充分」
「……お前ってやつは」
何度、この言葉に癒されるのだろう。慰められるのだろう。
「もう二度と、お前の傍を離れるもんか」
ガイはルークをきつく抱きしめたのだった。
「俺は、もう、二度とあの場所には戻れないんだろうな。あの時間にも」
ジェイドの執務室にコーヒーを持って行きながらガイは思う。
「何か言いましたか? ガイ」
「おお、ガイか! これで遊ばないか! マルクト特産のゴム風船は
そこらのものより一味違うぞ! なんと、ブウサギも入れる!」
「……」
ガイは、ジェイドの隣で楽しそうに風船と戯れる、世間一般では皇帝と
呼ばれている男を見下ろす。
「陛下、あなたはいったい何歳ですか! そのような姿を国民が
見たら暴動を起こします!!」
「いいじゃないか。民の遊びを理解するのも皇帝の務めだ。
ちなみにな、この赤いのがルーク、青いのがジェイド、黄色いのが
ガイ、だ」
「!」
「どうしました、ガイ」
ジェイドは、ガイの瞳からこぼれた一筋の涙を見逃さなかった。
「昔さ、おんなじことをやったやつがいてさ」
ガイは吹っ切れたように笑顔で振り向いた。
「今は、ジェイドもいるんだなって思ってさ」
(ルーク、お前、ほら、みんなと一緒に風船になれたぜ!)
三つの風船は、互いに距離を競いながら、空へ、空へと高く
舞い上がって行った。